MASAHITO UEDA
Department of Physics, The University of Tokyo

雑 記

何のために物理を勉強するのか?

意欲的な学生さんから上記のような質問を時々受けます。
これは、自分の将来を考え、また、大学を有意義に過ごすために至極当然の質問だと思いますので、 この場を借りて、私の意見を述べさせて頂きます。 以下に述べることは、私が常々感じていることですし、 また、多くの教員が感じている意見でもあると思いますが、それがすべてではないし、他の道もいくらでもあると いうことをあらかじめお断りしたいと思います。その上で、やや自由に意見を述べさせて頂きます。

(1) 「何のために物理を勉強するのか」
  解析力学、電磁気学、量子力学、熱力学、物理学実験、等とハードな必須項目がたくさんあることに気が付きます。そうです、物理はその基礎を理解するだけでも大変ハードな学問なのです。では、なぜそんなに勉強するのか?それは「物理が好きだからである、自然をもっと深く理解したいからである」が正解だと思います。人は、自分が好きなことを追求する場合に最もよく努力でき、従って、成長することがができると思います。物理に進学しようと思う人は、自分が本当に物理が好きかどうかをよく自問してみましょう。

(2) 「何をどれだけ勉強すればよいのでしょうか?」
  これは難しい問題です。その理由は、すべての科目をまんべんなくできる人が将来伸びるとは限らないからです。しかし、世界には恐ろしいほど早熟な人がいることは確かです。私の友人の一人は、16歳のときにランダウ=リフシッツの全教程をマスターしていたといっていました(彼は16歳の時に物理オリンピックで銀メダルを取りましたので、内容を理解していたことは確かでしょう)。物理で将来研究者になりたいという人は、このような人々と将来競争しなければなりません。そう考えると、単に試験の成績が良いということぐらいで満足できないことがわかるでしょう。大切なことは、自分が興味を感じることを見つけてそれを自分が納得できるまで理解しようと努めることです。はじめは、教科書の内容でも良いでしょう。そのなかで、興味を感じるトピックをあれこれ調べて、教員にも議論を挑んでみましょう。あなたが十分な準備を持って臨めば、きっと深い知的満足が得られるでしょう。

(3) 「英語はどの程度勉強する必要があるのでしょうか」
  英語は絶対に必要です。四年生になると英語の原論文を読みます。大学院生になると論文を書くようになりますが、論文は英語で書かれます。また、良い仕事をすると国際会議で発表するようになりますが、発表もそれに続く質疑応答ももちろん英語です。あなたがどんなに良い仕事をしても、それを英語で正確に表現できなければ他人に理解してはもらえませんし、英語によるコミュニケーションができなければあなたの将来の活躍にとって絶対的に不利です。日本人が英語が出来ないことは有名ですが、その理由は、大学に入ったとたん英語をまじめに勉強しなくなるからです。英語力は短期間で養うことはできませんので、1年生のときから将来の必要性を見据えて研鑽を怠らないことをを強く勧めます。物理に必要な英語力をつけるためには、例えば、自分の好きな科目(量子力学や相対論など)について英語の教科書を一冊読み通してみてはいかがでしょう?

最後に、あなたが将来どのような選択をしようとも、高い志(=自分の能力をのばしたいと思う強い意志)を 持とうとし、またそれを持ちつづけることができれば、いつかは大きなチャンスが訪れると私は信じます。この文章を最後まで読んでくれたあなたもまたそれを信じることを望みます。