UEDA GROUP
Department of Physics, The University of Tokyo

第7回 基礎物理セミナー合宿

-分野横断型若手ワークショップ-
過去の合宿 第6回(2013) 第5回(2012) 第4回(2011) 第3回(2010) 第2回(2009) 第1回(2008)

概要

若手研究者を中心にした2泊3日の合宿形式でのセミナーです。 幅広い専門と興味の参加者が集まり議論をすることで、基礎物理の理解を深めながら、 新しい物理の発見につなげていくことを目的とします。基礎物理に根ざした入門的セミナーを講演で行い、それぞれの専門的な研究成果の発表をポスター発表で行います。

ご質問等は曽弘博 (hakone.physics2014あっとgmail.com) まで

お知らせ 第7回基礎物理セミナー合宿

会場: 箱根太陽山荘
開催期間: 2015年2月14日(土)〜16日(月)
参加費&宿泊費: 18,120円 (内訳:初日:9,870円、二日目:8,250円)

      
招待講演者 : 堀越宗一、紙屋佳知、金澤輝代士、塩崎謙、谷崎佑弥、不破麻里亜

プログラム
   
14日(土)13:00- 集合
13:50-14:00Opening Remarks      曽弘博、堀之内裕理(東大)
14:00-15:15冷却原子実験で探る高エネルギー物理 堀越宗一(東大)座長:古川 俊輔(東大)
15:30-16:45スピン液体の量子モンテカルロ計算:perturbed 3D toric code の熱力学相図紙屋佳知(理研)座長:古川 俊輔(東大)
17:00-17:30ポスター発表・プレヴュー
18:00-20:00夕食
20:00- ポスターセッション(偶数番号発表) & 懇親会
15日(日)10:30-11:45トポロジカル絶縁体・超伝導体の分類について塩崎謙(京大)座長:倉持 結(東大)
11:45-14:00昼食
14:00-15:15光の粒子性と波動性を統合するハイブリッド量子情報処理不破麻里亜(東大) 座長:倉持 結(東大)
15:30-16:45非ガウスランジュバン方程式の微視的導出・解析解金澤輝代士(京大)座長:倉持 結(東大)
18:00-20:00夕食
20:00- ポスターセッション(奇数番号発表) & 懇親会
16日(月)-10:00チェックアウト
10:30-11:45Lefschetz-thimble 積分法とその物理への応用谷崎佑弥(東大・理研) 座長:堀之内 裕理(東大)

講演アブストラクト

speaker 堀越 宗一(東大)
title 冷却原子実験で探る高エネルギー物理
abstract 物理学の美しいところは、スケーリング則により全く異なる物理系が繋がる点であり、 冷却原子研究の凄みはスケーリング則を満たす興味ある量子多体系で実験、観測が出来る点にある。 またレーザー冷却は光子で行うため、この技術は物質にとどまらず反物質にも適応可能である。 将来のレーザー冷却は物質-反物質の対称性の検証に活躍するかもしれない。
我々はこれら特徴を活かし、冷却ボース−フェルミ混合系を用いて、 希薄中性子物質の状態方程式の決定と中性子星の半径−質量曲線の構築、 希薄核物質の3体力の探査に向けて研究を進めている。
また反水素原子のレーザー冷却へ向け、モードロックレーザーを用いた次世代型のレーザー冷却技術の開発も進めている。 発表では実験の現状とその周辺の物理を紹介する予定である。


speaker 紙屋 佳知(理研)
title スピン液体の量子モンテカルロ計算:perturbed 3D toric codeの熱力学相図
abstract フラストレート磁性体において量子スピン液体が実現する可能性に近年大きな関心が持たれているが,これらの系のハミルトニアンは解析が難しく,決定的証拠を得ることは容易ではない. 一方,Kitaev模型などの一連の理論模型は量子スピン液体が基底状態であることが厳密に示され,また数値計算により摂動や有限温度の効果を定量的に調べられるという点で非常に有用である. 今回我々は3次元版のtoric codeに摂動的な強磁性Ising相互作用を加えた系を量子モンテカルロ法によって調べ,常磁性相,量子スピン液体相,および強磁性秩序相を含む熱力学相図を得た. セミナーではこの結果について発表するとともに,量子モンテカルロ法について基本事項や,今回我々が用いた多スピン非対角項をうまく扱うためのアイデアなどを紹介する. なお本研究は加藤康之(理研),那須譲治(東工大),宇田川将文(東大),求幸年(東大)の各氏との共同研究である.

speaker 塩崎 謙(京大)
title トポロジカル絶縁体・超伝導体の分類について
abstract トポロジカル絶縁体・超伝導体とは自由フェルミオンのトポロジカル相であり、 大きく次の3つの項目からなる。
(a)バルクのギャップフル・トポロジカル相
(b)欠陥に局在するギャップレス状態
(c)ワイル、及びディラック半金属といったバルクのギャップレス・トポロジカル相
上記の3つは「欠陥ギャップレス状態は絶縁体の端状態とみなすことができる」、「バルクのトポロジカル相と境界ギャップレス・トポロジカル相 とは1対1に対応する(バルク境界対応)」という経験則により互いに密接に関係している。トポロジカル絶縁体・超伝導体の分類表の導出について簡単に紹介し、 3つの同等性について確認する。
さらに進んだトピックとして、結晶対称性によって守られたトポロジカル相の分 類問題について議論したい。現在、簡単な点群対称性に対してのみ 分類が行われているに過ぎず、分類が未解明な対称性クラスが多々存在する。位数2の磁気点群(Z2グローバル、鏡映、2回回転、空間反転)に対しては系統的な分類が可能であり、このことについて解説する。

speaker 不破 麻里亜(東大)
title 光の粒子性と波動性を統合するハイブリッド量子情報処理
abstract 光を用いた量子情報処理には、光を粒子とみなし、光子1つに情報をエンコードする離散量量子情報処理(Discrete Variable, DV)と、光を電磁波とみなし、電磁場の振幅と位相に情報をエンコードする連続量量子情報処理(Continous Variable, CV)がある。これらの2つのアプローチは、理論体系も実験技術も独立に発展を遂げてきた。しかし、いずれのアプローチにも、互いに相補的な利点と欠点がある。具体的には、DVの手法を用いると、量子操作の精度が上がりやすい一方で、量子操作を確率的にしか実行できない。CVのの手法を用いると、量子操作の精度が制限されてしまう一方で、量子操作を決定論的に実現できる。
そこで、我々は2つのアプローチの実験技術を融合することで、双方の利点を組み合わせ、欠点を克服する研究を進めている。このようなハイブリッド量子情報処理を実用化するに当たって、量子情報処理の最小単位である「量子テレポーテーション」(量子エンタングルメントと古典通信を用いて光をカット&ペースト方式で転送する手法)が重要な要素技術となる。
今回のセミナーでは、このハイブリッド技術を用いた量子テレポーテーションの最新の研究成果と、ハイブリッド技術を量子力学基礎論の探求へ応用し、「単一光子の非局所性」を厳密に検証した研究成果について紹介する予定である。

speaker 金澤 輝代士(京大)
title 非ガウスランジュバン方程式の微視的導出・解析解
abstract 近年微小系の実験技術が向上し,揺らぎのダイナミクスの研究が詳細に行われている.揺らぐ系のモデルとして良く使われるモデルに,ランジュバン方程式がある.ランジュバン方程式は幅広い平衡系で現れる事が示されており,更に解析的に性質の良い模型である.一方, 非平衡系に由来する揺らぎ(非熱的揺らぎ)は必ずしもガウスノイズで記述出来るとは限らず,非ガウスノイズ性が重要な事が実験的に報告されていた.
そこで講演者は非ガウスランジュバン方程式の微視的導出法を考案した.熱的揺らぎと非熱的揺らぎが共存する系では非ガウス性が顕在化し得ることを示した.また,非ガウスランジュバン方程式の計算方法として,定常分布のフルオーダー摂動解を構築した.講演では,ガウスランジュバン方程式の導出の詳細なレビューを行った上で講演者の研究内容を説明する予定である.

speaker 谷崎 佑弥(東大・理研)
title Lefschetz-thimble 積分法とその物理への応用
abstract Picard-Lefschetz 理論と呼ばれる複素解析のテクニックを、振動積分の漸近展開に応用する手法を紹介する。これは停留位相の方法を多変数積分の場合に一般化したものであり (停留位相の方法における最速降下線の一般化がタイトルに有る Lefschetz thimble と呼ばれるものである)、近年 Witten によって Chern-Simons 理論の経路積分に応用されてから 注目をされつつある。いずれも未完成ではあるが、これを用いて量子力学の WKB 近似をより正確のものに拡張する試みや、量子統計の計算に現れる符号問題の解決を目指すといった野心的な試みが いくつか提案され、部分的な結果が得られてきている。
このセミナーでは、経路積分のおもちゃとして簡単な行列模型を考えて、そこへの応用を通して手法の理解と提案されている試みの本質的な部分を説明したいと思う。また、未解決な問題も多くあるので、 時間があればその紹介もしたい。

ポスター発表
1高橋 雅裕(学習院大)量子渦糸乱流における非平衡臨界現象の理論的解析 (abstract)
2古川 俊輔(東大)光格子中のBECにおけるBogoliubov励起バンドのトポロジー (abstract)
3曽 弘博(東大)Gross-Pitaevskii汎関数の厳密な導出 (abstract)
4森 瞳美(東工大)2次元XYモデルにおけるKosterlitz-Thouless転移 (abstract)
5久良 尚任(東大)共形場理論におけるアフィンLie代数 (abstract)
6作道 直幸(理研)メソンとバリオンにおけるクォーク閉じ込めの双対超電導描像 (abstract)
7安斎 貴昭(東工大)スピンに依存した有効磁場中の二成分フェルミ気体 (abstract)
8関野 裕太(東工大)1次元原子気体におけるFermi-Bose mappingと相関関数 (abstract)
9中島 拓夫(東工大)冷却原子を用いた1次元ランダムポテンシャルにおける物質波のアンダーソン局在 (abstract)
10濱崎 立資(東大)Relaxations in Nonintegrable Systems with Discrete Symmetries (abstract)
11白井 達彦(東大)周期的に駆動された量子開放系の定常状態の性質について (abstract)
12倉持 結(東大)量子測定における系のPOVMに関する古典条件と相対エントロピーの保存則 (abstract)
13東川 翔(東大)対称性の破れの分類理論とU(N)対称性を持つ系への応用 (abstract)
14佐藤 正寛(青学)Laser Control of Magnetization, Chirality and Orders in Quantum Many-Body Systems (abstract)
15池田 達彦(東大)小さな孤立量子系におけるミクロカノニカルアンサンブルの精度 (abstract)
16神中 俊明(東理大)Lieb-Liniger積分方程式に対する新たな展開法 (abstract)
17堀之内 裕理(東大)Property of a Limit Cycle and Efimov Physics (abstract)
18吉田 周平(東大)p波フェルミ気体の相関関数と熱力学の普遍的な関係 (abstract)
19設楽 智洋(東大)量子測定における情報と擾乱の満たす不等式 (abstract)
20村下 湧音(東大)絶対不可逆性から見たGibbsパラドックス (abstract)

第7回世話人: 曽弘博(東大上田研究室)、堀之内裕理(東大上田研究室)
講演の様子
ポスターセッション
集合写真