UEDA GROUP
Department of Physics, The University of Tokyo

第8回 基礎物理セミナー合宿

-分野横断型若手ワークショップ-
過去の合宿 第7回(2014) 第6回(2013) 第5回(2012) 第4回(2011) 第3回(2010) 第2回(2009) 第1回(2008)

概要

若手研究者を中心にした2泊3日の合宿形式でのセミナーです。 幅広い専門と興味の参加者が集まり議論をすることで、基礎物理の理解を深めながら、 新しい物理の発見につなげていくことを目的とします。基礎物理に根ざした入門的セミナーを講演で行い、それぞれの専門的な研究成果の発表をポスター発表で行います。

ご質問等は設楽智洋 (hakone_camp[あっと]cat.phys.s.u-tokyo.ac.jp) まで。

お知らせ 第8回基礎物理セミナー合宿

会場: 箱根太陽山荘
開催期間: 2016年2月20日(土)-22日(月)
参加費&宿泊費: 18,270円 (1泊目: 9,870円, 2泊目: 8,400円)

招待講演者:内野 瞬, 加藤 晃太郎, 佐々木 寿彦, 白井 達彦, 久富 隆佑, 森田 悠介

プログラム    
20日(土)13:00- 集合
13:50-14:00Opening Remarks      設楽 智洋 (東大)
14:00-15:15条件付き相互情報量と量子多体系 (スライド)加藤 晃太郎 (東大)座長:古川 俊輔
15:30-16:45量子鍵配送における安全性証明の構造と擾乱を必要としない新しい量子鍵配送 (スライド)佐々木 寿彦 (東大)座長:古川 俊輔
17:00-17:30ポスター発表・プレヴュー
18:00-20:00夕食
20:00- ポスターセッション(偶数番号+蘆田さん発表) & 懇親会
21日(日)10:30-11:45強磁性マグノンを用いた量子トランスデューサの実現に向けて (スライド)久富 隆佑 (東大)座長:村下 湧音
11:45-14:00昼食
14:00-15:15時間周期駆動量子開放系の定常状態 (スライド)白井 達彦 (東大)座長:辻 直人
15:30-16:45Transport phenomena in cold atoms (スライド)内野 瞬 (理研)座長:辻 直人
18:00-20:00夕食
20:00- ポスターセッション(奇数番号発表) & 懇親会
22日(月)-10:00チェックアウト
10:30-11:45バルク半導体中の励起子ボースアインシュタイン凝縮について (スライド)森田 悠介 (東大)座長:吉田 周平

講演アブストラクト
speaker 加藤 晃太郎 (東大)
title 条件付き相互情報量と量子多体系 (スライド)
abstract 相互情報量は古典及び量子情報理論において、状態の持つ2体間相関の尺度として広く用いられている。条件付き確率分布を元に相互情報量を拡張した「条件付き相互情報量」もまた、量子暗号から量子エンタングルメント理論、トポロジカル秩序相の研究まで、様々な応用を持つ重要な関数である。近年、条件付き相互情報量が十分小さい値を持つような量子状態の性質に関して重要なブレイクスルーがあり、量子情報の分野で大きな注目を集めている。本講演では、条件付き相互情報量の導入から始め、そのブレイクスルーを紹介する。また、量子多体系への応用例として、トポロジカル秩序相の基底状態における条件付き相互情報量とエンタングルメント・ハミルトニアンの非局所性の関連や、(時間があれば)短距離ハミルトニアンのギブス状態における条件付き相互情報量の減衰について、これまでに得た結果を紹介する。

speaker 佐々木 寿彦 (東大)
title 量子鍵配送における安全性証明の構造と擾乱を必要としない新しい量子鍵配送 (スライド)
abstract 例えば、量子鍵配送ではできた鍵の安全性は保証できない。
これを理解するには、量子鍵配送理論が一体何を示しているのかについて一歩踏 み込んだ理解が必要になる。本講演では上記のようなあたりまえのようで案外難 しい量子鍵配送の枠組みについて話す。また、時間があれば、我々が最近提唱し ている擾乱を必要としない量子鍵配送について紹介し、量子鍵配送の中でどのよ うに位置づけられるのかを説明する。

speaker 久富 隆佑 (東大)
title 強磁性マグノンを用いた量子トランスデューサの実現に向けて (スライド)
abstract 光、そしてマイクロ波は、量子情報処理技術においてそれぞれ大きな特徴をもつ。前者は遠隔地への量子情報伝送に不可欠であるのに対し、後者は超伝導量子回路に代表されるような量子演算素子(物質)と強く相互作用し、量子もつれ制御に力を発揮する。この二者間で量子情報をコヒーレントに伝達する量子トランスデューサの研究は、量子中継器や量子ネットワークの実現に繋がると期待され、精力的になされている。
強磁性体を構成するスピン集団は、近接スピン間の交換相互作用により秩序化し、巨視的な磁化を発現する。その巨視的磁化のゆらぎは静磁波モードと呼ばれる調和振動子型の運動モードで記述できる。我々は静磁波モードの量子であるマグノンを媒介として、光‐マイクロ波間の(古典的な意味での)コヒーレントな情報伝達を実現した。
本講演では、実験の実際を解説し、さらに量子トランスデューサの構築に向け現在我々が取り組んでいる内容についても議論する。

speaker 白井 達彦 (東大)
title 時間周期駆動量子開放系の定常状態 (スライド)
abstract 近年、時間周期的な外場を用いて、静的な系には現れないマクロな物性を創る試みが盛んに行われている。理論的には、1周期の時間発展演算子から定義される有効ハミルトニアンが用いられる。この有効ハミルトニアンは外場のパラメータに依存するため、例えば外場の振幅を変えることで相転移を起こすことなどが提案されている。
講演者はこれまで、有効ハミルトニアンが熱力学的な意味を持つかという問題を考えてきた。固体中では必ず存在する熱的環境と接しているとき、その系が緩和した後の状態は、有効ハミルトニアンのギブス状態になるのだろうか、つまり有効ハミルトニアンから期待される物性は現れるのだろうか。ここでは、この疑問に対する答えを中心に、お話しする。
A time-periodically driving field has been an attractive tool to create peculiar dynamical properties absent in the static system. The dynamical properties are theoretically described by the effective Hamiltonian, which is defined by a time evolution operator over one period. This Hamiltonian depends on the amplitude and frequency of the driving field, and recently it has been utilized to propose a new phase.
Here, we address the following question; is the effective Hamiltonian relevant for the description of the steady state when the system is surrounded by a dissipative environment? Does the expected property from the engineered Hamiltonian appear in the steady state? In this talk, I will answer the question.

speaker 内野 瞬 (理研)
title Transport phenomena in cold atoms (スライド)
abstract Remarkable quantum many-body phenomena such as superconductivity, quantum Hall effect, and Kondo effect have historically been discovered in transport measurements. Recently, transport experiments in cold atoms have offered a new approach and attracted attention in anticipation of novel transport phenomena. In this talk, I will discuss related matters and recent progresses in this field.

speaker 森田 悠介 (東大)
title バルク半導体中の励起子ボースアインシュタイン凝縮について (スライド)
abstract 半導体中の電子系を励起することで生成される電子正孔系は、多様な状態相を有し広く研究されている。本発表で取り上げる励起子は電子と正孔1個ずつがクーロン相互作用を通じて束縛しあっている状態として存在し、ボース準粒子としての振る舞いを示す。励起子系のBECについての理論的予想は古く、BCS-BECクロスオーバーに繋がる研究がKeldyshらによって行われたのも励起子系(電子正孔系)であった。また、ボース統計を示す粒子でありながら、フェルミ粒子の多体的な振る舞いが根底にある点も特徴の一つであり、励起子系が超流動性を示すか否か、などの問題も興味深い。このような理論的な興味に対し実験的な側面では、バルク半導体中の励起子BEC観測について未だ完全な解決はなされていない。近年発表者の研究室において励起子BECの間接的な観測が報告されている。さらには励起子を前人未到の温度領域まで冷やすことに成功し、BECの直接的な観測に向けた実験が進められている。本発表では、これらの実験的な進捗と課題をメインに説明する。

ポスター発表
1蘆田 祐人 (東大)実時間観測下における光格子系の量子ダイナミクス (abstract)
2中川 大也 (京大)冷却原子系を用いた近藤効果の光制御と対称性に保護されたトポロジカル相転移 (abstract)
3Zongping Gong (東大)Quantum Trajectory Thermodynamics with Discrete Feedback Control (abstract)
3藤井 啓資 (東工大)2次元カイラルp波超流動体の有効理論 (abstract)
5古川 俊輔 (東大)人工次元・ゲージ場中の相互作用粒子系における悪魔の階段 (abstract)
6辻 直人 (理研CEMS)New collective mode in superconductors (abstract)
7 中島 拓夫(東工大) 汎関数くりこみ群を用いた量子少数系の解析 (abstract
8 森 貴司(東大) アンサンブル等価性と相対エントロピー (abstract
9 村下 湧音(東大) 微小熱力学系のGibbsパラドックス (abstract
10 木田 宣彦(東工大) エフィモフ状態における離散的スケース不変性 (abstract
11 早田 智也(理研CEMS) Chiral magnetic effect by synthetic gauge fields (abstract
12 堀之内 裕理(東大) Renormalization-Group Limit Cycle and the Efimov Physics (abstract
13 関野 裕太(東工大) 接触型相互作用する1次元ボース気体およびフェルミ気体の相関関数 (abstract
14 濱崎 立資(東大) 孤立量子系における対称性の揺らぎへの影響 (abstract
15 安斎 貴昭(東工大) スピン依存磁場中の二次元フェルミ気体の研究 (abstract
16 高橋 雅裕(学習院大) 超流動体における 衝突非平衡ダイナミクス (abstract
17 龍田 真美子(東大) アンサンブルの等価性の破れの解消 (abstract
18 久良 尚任(東大) 量子推定のアルゴリズムと情報幾何 (abstract
19 作道 直幸(お茶大) 数式処理システムを用いた非平衡相転移現象の解析 (abstract
20 吉田 周平(東大) 共鳴p波フェルミ気体の普遍性と異方性 (abstract
21 設楽 智洋(東大) 量子Fisher情報量と線形応答理論 (abstract
22 佐藤 正寛(日本原子力研究開発機構) レーザーによって磁性絶縁体を高速制御する3つの方法 (abstract)

第8回世話人: 設楽智洋(東大上田研究室), 村下湧音(東大上田研究室), 吉田周平(東大上田研究室)